香川県丸亀市では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を通じて、市民サービスの向上と行政業務の効率化を目指し、「丸亀市DX推進計画」を策定しました。この計画は、全庁的かつ横断的な視点でDX化を推進することを目的としており、業務プロセスの見直しや行政サービスのデジタル化に取り組んでいます。
2025年3月には業務可視化ツール「wakucone」を導入。このツールにより、職員が行っている業務内容やその流れ・手順を把握できるほか、各業務に費やされる時間や頻度といった定量的データの収集が可能になります。また、職員ごとの負担状況も可視化されることが期待されています。
この導入に至る背景や具体的な効果、そして未来への展望について、認定DXアドバイザーとしての知見を活かしながら業務改善を進めている市長公室デジタル活用推進課の樽本誠司氏にお話を伺いました。
丸亀市では、総務省が発表した「自治体 DX 推進計画」を契機に、デジタル変革への意識を高め、先進的な DX 化の取り組みを積極的に推進しています。これまで情報管理部門として庁内ネットワークのサーバーやパソコン、通信インフラ整備などを担ってきた「情報政策課」は、令和 6 年度から名称を「デジタル活用推進課」に改め、新たに DX 化推進の中心的役割を担うこととなりました。
また、生産年齢人口の減少による労働力不足という社会的課題が顕在化する中で、将来的な行政職員の担い手不足も深刻な懸念となっています。このような背景から、業務プロセスそのものを抜本的に見直し、効率化と革新を実現するためには DX 化が不可欠です。丸亀市では、この挑戦を単なる技術導入にとどめず、市民サービスの向上と持続可能な行政運営への道筋として位置づけています。
DX 化による業務プロセスの変革を推進するためには、各部署が抱える課題や改善ポイントを的確に把握し、それを基に具体的な業務改善策を検討することが求められています。この目的で全庁的なヒアリングを実施しましたが、有益な情報を得ることが難しく、一つの部署へのヒアリングだけでも半日近く要するなど、大きな負担となっていました。
現在、外部 DX アドバイザーの支援を受けながら、デジタル活用推進課を中心に DX 推進を進めています。しかしながら、聞き手側が現場の実情や課題について十分に理解していないため、ヒアリングでは想像や推測に基づいた議論になりがちという根本的な課題も浮き彫りとなっています。
こうした状況下、新たな解決策として通信インフラ関連業務を委託している NTT 西日本株式会社から紹介された「wakucone」に注目しました。「wakucone」はパソコン操作ログを AI解析することで業務実態を可視化し、課題や改善ポイントを効率的かつ効果的に抽出できるツールです。この革新的なソリューションは、現場のリアルデータに基づいて意思決定できる点で非常に有用と判断されました。まずは時間外労働時間が多い 3 部署への導入からスタートし、その成果と可能性について検証しています。
この取り組みは、従来型のヒアリング手法では得られない深い洞察と精度の高い分析結果を提供、本市の DX 化推進における新たなステージへの扉を開くものとして期待されています。
「wakucone」は、パソコンの操作ログを基に AI が定型業務を自動で仕分けし、感覚的な判断ではなくデータドリブンなアプローチで課題を客観的に把握できる革新的なサービスです。このツールの導入により、組織全体や個人ごとの稼働時間や利用状況が可視化され、各部署の業務実態が一目で把握できるようになりました。その結果、課題や改善ポイントを迅速かつ的確に特定することが可能となり、業務改善への道筋が大きく拓かれています。
また、「wakucone」を活用した分析結果レポートはヒアリングプロセスにも大きな変革をもたらしました。従来半日近く要していたヒアリング作業がわずか 1 時間程度まで短縮されただけでなく、論点が明確化されたことで議論の質も向上しました。このデータ駆動型アプローチは外部 DX アドバイザーとの連携にも効果を発揮しており、実態に即したデータを基盤とすることで専門家の知見を最大限活用しながら効果的な業務改善策を見出すことが可能となっています。
さらに、「wakucone」の導入は職員意識にもポジティブな変化をもたらしています。現場からは「こんな取り組みはどうだろうか」といった積極的な提案や相談が増え、職員自身の意識改革とモチベーション向上につながっています。これまでは多くの時間と労力を費やして行っていたヒアリングでも成果につながりづらい状況でした。しかし、「wakucone」によるデータ分析によって課題提起と業務改善策の精度が格段に向上し、それによって原課職員との信頼関係も一層強固になったと感じています。
全庁でさらなる DX 推進を図るためには、多様なステークホルダーとの連携が不可欠です。「wakucone」が提供するデータドリブンな洞察力と効率性は、その実現への強力な推進力となります。我々はこのツールを最大限活用し、新しい時代の行政運営モデルへ進化させていきます。
丸亀市では、「wakucone」を活用した業務改善を通じて、紙媒体で運用していたプロセスのシステム化(デジタイゼーション)から、RPAやOCR技術を駆使した手作業業務の自動化(デジタライゼーション)へと着実に進化を遂げています。この取り組みにより、行政内部のデジタル化に向けた具体的な成果が徐々に見え始めています。
今後は、それぞれの施策による効果を丁寧に検証しながら、「wakucone」の導入範囲を段階的に拡大することで、「丸亀市DX推進計画」が掲げる全庁的かつ横断的なDXを推進したいと考えています。
また、この取り組みを基盤として、将来的には地域課題の解決に向けた本格的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し、市民一人ひとりがより便利で快適な生活を送れるよう、質の高いサービス提供と未来志向のまちづくりをめざしてまいります。